群馬県の石造美術(14)=館林市・愛宕神社地蔵板碑 |
東武伊勢崎線「館林」駅の北方約400メートルの道路から少し入ったところに建つ愛宕神社の杜殿右手に、前面がガラス張りの小さな収蔵庫が立てられてその中に保存される。管理は館林市教育委員会。
切石を二段敷きその上に現高195センチ、上幅52、下幅55.2、厚さ8.3(上方)~9.5センチ(下方)の緑泥片岩製の板碑で、頭部を大きく欠失する。残る右上方に蓮座のごく一部が残っている事から考えて折れた上方に種子(恐らくは地蔵種子)が有ったと考えられる。石の端から2~3センチ内側に輪郭線を巻く。
現在残る部分には大きな円頭光をおって左手を外に出して宝珠を捧げ持ち、右手に錫杖を持つ地蔵立像を77センチの大きさに薄肉彫りする。袈裟の一部を陰刻して変化を付けている。足下には高さ5.5センチ、幅30.5センチの蓮座を薬研彫り状に彫り込む。
蓬座の下に四行にわたる銘文が彫られるが二行目はかなり剥落が進み判読しがたい状態になっている。今までの報告を参照しながら判読すると次のようになる。
「右志者為過去慈父出離
生死往生極楽成仏得道
文永第十年癸酉二月日 (1273年)
十三ケ年十二人孝子等敬白」
父の十三回忌に当たって十二人の子どもが造立したもので、地蔵信仰と極楽往生の信仰が繋がったものと知られる。
なお、群馬県邑楽郡千代田町赤岩・光恩寺にこれより二年早い文永八年の年紀を持つ地蔵像板碑(総高163.2センチ)が有るが、訪れた当日は強風が吹き荒れ、境内の太い木製の角塔婆が突然折れて倒れるというような有様で調査を断念した。