埼玉県の図像板碑(178) 北埼玉地区・羽生市(2) |
秩父鉄道の「新郷」駅の北約1.5キロの国道122号線の小須賀交差点を少し東に入った所に建つ真言宗智山派の寺院で、本堂右手に鐘楼があり、その前に北面して二基の板碑が立っている。
左塔は、地上高113.5センチ、上幅・下幅ともに46、厚さ9センチの背面はほぼ平らになった緑泥片岩製の板碑。左側頂部は大きく欠損してほぼ平らになっているが、右側頂部には羽刻みの跡が残っている。平らに磨かれた石の表面上方に高さ52センチ、幅28センチの大きさで種子「キリーク」を薬研彫りする。縦線の部分で幅9センチに対して0.9センチという割合い浅い深さで彫りこむ。種子の下には幅25センチ高さ19センチの大きさで蓮座を陰刻するが、種子の形に合わせて左の連弁は右に比べて長く伸びている。
県報告書には、この種子の下に「脇侍部分が月輪状に線刻されている」と記されている。地面を少し掘り下げてみると、その下に陰刻で衣紋が彫られており、幅約1センチの平底に彫られた頭光であることが判る。また、この頭光の中に細い線刻で顔が彫られていることが、右側の頭光の中で認められる。即ち二脇侍菩薩を像容で彫るものと知れる。
主尊が阿弥陀如来の種子キリークであるから、脇侍菩薩は観音菩薩と勢至菩薩と考えられるが、右側の像は頭を丸めているように見え、普通に見る弥陀三尊図像板碑と断定しがたい。中尊を像容で表し、脇侍菩薩を種子で表す例は群馬県前橋市・小島田板碑など数例が見られるが、この板碑の場合は逆の表現法を取っている点で珍しい。
坂田二三夫氏は「埼玉県の板碑拾遺雑記」(『歴史考古学』第15号 昭和60年4月)の中で、その製作年代を「推定であるが、板碑の形や種子の古風な大らかさから見て、建長年間以前のものと考えている」と、述べている。